武家の女性の凛とした在り様、その<動>と<静>の側面を体現する寺井田鶴(たづる)と宗方三弥(みや)の役を、瀬戸朝香と酒井美紀が共に熱演している。三弥が田鶴へ抱いている憧憬と嫉妬が入り混じった少女時代からの思慕を、「嫌い・・大っ嫌い・・」という反語的な求愛として吐露するシーン・・見開いた瞳に涙を一杯に溜めて田鶴(瀬戸朝香)を見据える三弥(酒井美紀)の表情の凄絶な美しさ! 中原俊の傑作『櫻の園』で描かれた、少女から少女への恋慕(その告白は、正反対の「好き・・大好き」だった)の哀切さと甘美さが更に鮮烈に甦った。それにしても、酒井美紀という女優がこれほど時代劇の女性を演じる事に卓越しているとは思いもよらず、私は一変にファンになってしまった。 原作は藤沢周平の短編「榎屋敷 宵の春月」(『麦屋町昼下がり』所収)だが、物語の骨格は踏襲しているものの、そこに盛り込まれた人物造形は些か異なり、田鶴と三弥の心理的陰翳においては著しく相違している(上に引用した二つの重要なセリフは、共に原作には無い)。それは無論、脚本家(宮村優子)の企図であり裁量であるのだが、この場合、藤沢の原作に見事な彩りを付け加えたと評すべきである。女性ならではの繊細さは言うに及ばず、あの映画『昭和残侠伝』シリーズの花田秀次郎(高倉健)と風間重吉(池部良)のクライマックスの道行きシーンへのオマージュ(これは演出の吉村芳之の仕業か?)としか思えない外連(ケレン)を取り入れるなど、随所にセンスの奔出を感じさせた。 |